(R4年2月13日)
知見よりの考察と提案(その1)
知見よりの考察と提案(その1)
日本建築学会の「構造系論文集 (第87巻 第792号)」に接しての提案です。
論文タイトル : 変動軸力および2方向水平力が作用する 鉄筋コンクリート立体隅
柱梁接合部における降伏破壊および軸崩壊に関する研究
どんな分野においても、知見の蓄積に「実証」が伴う。インドネシアの地震被害で多く
見られるこの研究テーマに考察と提案です。東南海地震ともなれば、一躍着目されます。
明治大学大学院理工学研究科建築・都市学専攻の大学院生の「佐野由宇」氏に感謝です。
関わられた諸先輩にも敬意を表し、日本建築学会の正会員も卒業した現在、学びの大切さ
を痛感しています。
大地震時の降伏破壊や軸崩壊(ⅠⅡⅢ)機構についての詳細は、割愛いたします。
今一度、2020年版 技術基準解説書(黄色本) P-668~P-690のうち、近年の調査とある
欄外の縦傍線部に着目され、付1.3-47式の実験値 / 計算の平均値・変動係数に理解度を深めて頂きたい。構造設計技術者として難易度は高いが「知見の修得」に役立ちます。
柱梁接合部において、「アスペクト比」も大切な要因でもある。当然の事として接合部降伏
破壊に伴い柱軸力支持能力の喪失は「軸崩壊」である。崩壊機構の理解に即、結び付く。
接合部形式で被害の多い隅柱のパネルゾーン内における上・下柱と梁の図心に力の流れに
再配分を繰り返す交番荷重時に部材の挙動と連動しながら収束する働きに欠陥が起こる。
その「欠陥」はS造ならアスペクト比1.8が一つの目安である。板要素であるS造には
梁ウェブ接合部の崩壊機構におけるスキンプレートの降伏線やヒンジ場から梁ウェブの
塑性変形の理解に繋がるのです。今回の研究テーマは、RC造が対象であり論点を移します。
日本建築学会の「鉄筋コンクリート造建物の靭性保証型 耐震設計指針・同解説」にあるが
柱梁接合部の設計において、「設計目標」がある。
当然の事、骨組みが降伏機構を形成し終局限界変形に至るまで破壊しないように設計するである。顕著なスリップ性状の生じやすい出隅部には、特段の配慮は当然必要であり、横補強筋でのせん断補強筋比(%)に依存である。
研究のまとめでは、圧縮軸力比0.13~0までの変動軸力及び2方向水平力を受けるものに
ついて降伏破壊後に軸崩壊に至る力学挙動を静的実験で検討されている。
研究でも触れているが、上下の柱が「く」の字状に折れ曲がらない可能性に今後検討を
要するとしている。出隅部柱主筋の座屈発生時期の特定も含め2方向水平載荷時の地震時挙動についての今後の検討も期待しています。
提案として、出隅部柱主筋の座屈発生に回避や靭性を富む柱梁接合部に上下1.5Dも含めた領域に「CT形鋼挿入」による「骨組みの健全性」の寄与もある。一つの方法論である。
形式は異なるがピロティ階の単独柱において軸力を有効に負担出来る鉄骨や軸鉄筋などを挿入する例もある。鉛直支持機能の維持も含めた挿入鉄骨にも類似はするが、「パネル部の
弱点(ネック)域にSRC補強」にも着目しています。
(R4年2月16日)
塑性用語の学び(その2)
塑性用語の学び(その2)
過日の「構造系論文集 (第87巻 第792号)」に割愛した塑性用語の学びです。
論文タイトル : 変動軸力および2方向水平力が作用する 鉄筋コンクリート立体隅
柱梁接合部における降伏破壊および軸崩壊に関する研究
この研究テーマに出てくる「塑性用語」についてです。
大地震時の降伏破壊や軸崩壊(ⅠⅡⅢ)機構についての詳細を、理解しやすく解説します。
今一度、2020年版 技術基準解説書(黄色本) や防災協会の文献等に執筆担当者のお名前に目配りして頂く方は東京大学大学院工学系研究科の建築学専攻教授の「塩原 等」先生です。
塩原論文 (第74巻 第635号) の「鉄筋コンクリート柱梁接合部 : 終局強度と部材端力
の相互作用」が曲げ抵抗機構における破壊 = 接合部降伏破壊である。
従来は、「せん断破壊を防止」する設計が為されていたが、柱梁強度比が1に近い場合は
十分なせん断余裕度を確保していても、この破壊となり想定された梁曲げ終局耐力を十分に発揮できないことを指摘し、日本建築学会の「RC保有水平耐力計算規準」ではこの破壊に対して柱・梁の部材種別の判定に反映させた新しい設計法を提示しています。
少し、やさしく解説すると「降伏」とはある応力に達したとき部材内部に生じる粒子間の
滑り現象ですから、「破壊」という破断したり壊れたりして外力に抵抗できなくなった状態を連続的に学べば理解出来るはずです。「降伏破壊」について少し理解度を深めて欲しい。
「軸崩壊」についてであるがこれも「破壊」と連動し「パターンⅠ、Ⅱ、Ⅲ」にて解説する。
少し難易度は高いが、柱梁接合部形式の「⊢の字」において、パターンごとの軸崩壊とする。
「パターンⅠ」は、軸崩壊性状が右肩下がり
「パターンⅡ」は、軸崩壊性状がy鏡像状態
「パターンⅢ」は、軸崩壊性状が逆y字状態
供試体におけるコアコンクリートでは、多方向の斜めひび割れにより圧壊や剝落が進行し
梁による「圧縮ストラットの作用方向」に沿う柱主筋の局部座屈が伴う。上下柱が「く」の字状に折れ曲がる挙動も目視で確認できます。母校大学在籍時の「実験場」が懐かしい。
接合部形式で被害の多い隅柱のパネルゾーン内における上・下柱と梁の図心に力の流れに
再配分を繰り返す交番荷重時に部材の挙動と連動しながら収束する働きに欠陥が起こる。
この事象にご理解願えるよう各自の自己研鑽を期待いたします。
(R4年2月19日)
板要素と幅厚比(その3)
板要素と幅厚比(その3)
過去の「連載」に記載の記憶があるのは、つくば大学の故・井上哲郎名誉教授です。
さて、今回は「鋼構造論文集 (第20巻 第80号)」である。
執筆者は、東日本旅客鉄道㈱ 研究開発センター
当時の (千葉大学大学院工学研究科 博士後期課程) 星川 努 氏である。
論文タイトル : ウェブを軸方向スチフナーで補強したH形鋼梁の塑性変形能力
この方は、旅客運送事業 (鉄道) における線路上空建築物が研究テーマとなっている。
建築基準法による「建築物」の適用除外ではあるが、構造規定等の耐震安全性は社会基盤の一翼を担う重要なものであり、鉄骨造大スパン大梁の塑性変形能力が重要となる。
建築基準法施行令では、2020年版 技術基準解説書(黄色本) にもあるが部材の塑性変形能力を考慮して板要素の幅厚比を制限する規定を設けている。一方耐震診断などで幅厚比が非常に大きいH形鋼梁を架構に組み入れられ低い耐震評価となる例もある。
国の取り組みとして、建築基準整備促進事業においての内容は次回、論評いたします。
梁せいの大きいH形鋼の塑性変形能力の向上に寄与させる一つの手段として、「ウェブを
軸方向で補強したH形鋼梁」となります。内容の趣旨を簡単にやさしく解説します。
星川論文においては大梁の地震時の挙動を、先端集中荷重を受ける片持ち梁の変形に置換した応力分布に対して補強として、ウェブに両面スチフナーを挿入し、その長さの設定に関わるもので論じています。
当然の事柄として危険断面位置における局部座屈範囲との関わりです。隅肉溶接の作業も考慮した上変形能力の高い補強区間で曲げ降伏が先行する補強長さを設定となります。
それでも局部座屈は、下フランジ近傍のウェブプレートに発生しやすい。
軸方向スチフナーで補強したH形鋼梁の等価幅厚比は見かけのウェブ幅厚比である。
枚数を増加させると座屈補剛効果を評価も出来るが、面内曲げ応力の影響を考慮する
相違点がある。
この知見は、既存建物のウェブ幅厚比の大きいH形鋼大梁の塑性変形能力を向上させる
耐震補強の具体的な設計手法の基礎となるものである。
(R4年2月22日)
板要素と幅厚比(その4)
板要素と幅厚比(その4)
「板要素と幅厚比」に国の建築基準整備促進事業がある。その中に前回の論評も含めて
鉄骨造建築物の基準の整備に資する検討である。「建築研究所」との共同研究です。
担当大学は、宇都宮大学・千葉大学・東京工業大学・京都大学・北海道工業大学が参画
され平成23年度に実施済みである。接合部ディテール調査委員会も産官学となっている。
構造設計実務者にとって、この資料はとても役に立つ。何故なら、載荷実験・有限要素法
解析による検証、立体的に複雑な接合部分の例示仕様など盛り沢山に記載されています。
接合部実験WGによる実験も様々なパターンを示し、実務者にはお役に立ちます。
その一部を、簡単に解説しておきますので、各自にて自己研鑽を推奨します。
【鉛直ハンチを有する梁端接合部に関する実験】では
梁段差形式の柱梁接合部 : ダイアフラム形式・鉛直ハンチ形式
FEM解析変数例 : ハンチスチフナー補強を5例示している
骨格曲線 : M(kN・m)-R(rad)を始端・中央部・終端部を例示
【梁段違い形式の柱梁接合部に関する実験】では
梁段差形式の柱梁接合部 : 内ダイアフラム形式・柱補強形式
カットティ補強形式・プレートハンチ補強形式
全塑性曲げ耐力及び最大曲げ耐力評価 : 正側・負側を例示している
【勾配を有する梁と柱の接合部に関する実験】では
合掌棟部の加力概要 : No,1~No,6まで形状を示している
モーメントとパネルせん断変形角 : 無次元化骨格曲線を示している
【梁が偏心接合する接合部に関する実験】では
試験体のセットアップ : 目的から片方のパネルに変形集中し、早期破断の可能性
パネルの荷重-変形関係 : 復元力特性の履歴ループを示している
【ブレース接合部に関する実験】では
実験のセットアップ : 目的から非推奨、ディテールの力学的性状の検証
成果 : 破壊モードの検証から非推奨、偏心許容ディテール、柱梁両溶接ディテールの例示
この知見は、実務者にとって有益なものであり基準の整備に資するものである。
(R4年2月25日)
荒川告示式(その5)
荒川告示式(その5)
「荒川卓博士」に関する連載は、過去にも掲載し今年(2022年)お盆頃にも公開予定です。
その中では荒川卓先生の研究について「せん断抵抗を考える」と題しています。
昨年(2021年)12月実施の「構造計算適合判定資格者検定」において、考査Aの問19にも
「荒川mean式」に関する出題もありました。改めて、2020年版 技術基準解説書 (黄色本)
P-660から始まる梁のせん耐力式として、
付1.3-6式は、「荒川min式」であり下限値を示している。
付1.3-7式は、「荒川mean式」であり平均値の推定を示している。
黄色本のP-406 / 22行目にあるように、
柱、梁のせん断耐力式に荒川min式を用いる場合、告示の式(荒川mean式)に比べ1.1倍
程度の余裕度があると考えられ、表中の余裕度の値をそれぞれ1.1で除した値とする方法
によってよい。と記載されている。
構造設計実務者にとって、この荒川告示式はとても役に立つ。何故なら、荒川卓先生の工学博士の学位論文として1961年3月20日の発表された価値あるものなのです。
札幌に赴くと豊平川をいつも見つめています。大野和夫先生など諸先生にご協力を得ながら試験体の製作や実験に寝食を忘れての貴重な成果です。先人の英知に感謝です。
この知見は、今でも実務者にとって有益なものであり告示式として官報に記載です。
(R4年2月28日)
工学博士学位論文(その6)
工学博士学位論文(その6)
耐震偽装事件からささやかな「構造支援」を始めさせて頂き、早15年も経過しました。その前には兵庫県の県庁所在地である「神戸・三宮」での構造審査や適合判定審査に時間を取られ、適合判定の最終審査判断では神戸大学のM教授にもお世話になりました。
若年期に大阪工業大学から神戸大学大学院の故金谷弘教授の元に、「鉄骨梁端溶接部の脆性的破断防止」に関する前身となるべく論文タイトル「柱梁接合部のせん断変形に関する特定多項式」から道筋を付ける工学博士学位論文にチャレンジする準備をしておりました。
京都府八幡市にある「母校の実験場」の実証実験にも時間も先立つ金員もなく、あえなくダウンでした。
その当時、週に4件・年間数百件にも及ぶ「構造計算書」の作成に時間も取られており
ましたが、折角の膨大な演算データの有効な利用方法について「英文・和文」含め、何らか
の観点にターゲットを絞る事を母校では要求されていました。
ただ、大阪工業大学と神戸大学大学院では「学閥」のような壁を感じたのも事実です。
今となっては、「ポスドク」だって無意味・後進の為の就職先など期待は無理でした。
名古屋の「名城大学」など旧知の方のご紹介も辞退し、ひたすら「ローンウルフ」です。
母校では、「実務から見た構造設計」の著者の京都のU先生のお話にも辞退しました。
所詮、「我が道を行く」のささやかな「構造支援」を全国展開させて頂き、ライフワークと
なり、目の前を通過の「一級建築士」は把握出来ておりませんが相当数の方々と思います。
何をすれば、「相手がお喜びになるか」を熟慮徹底して構造支援の輪を広げています。
「社会貢献企業」として活躍の場を与えて頂き、感謝以外ありません。
人生一回限り・・・これを胸に秘め、ライフワークに邁進いたします。