構造支援・構造設計塾のハシテック

MENU
構造支援・構造設計塾のハシテック
構造支援・構造設計塾のハシテック

木造建築物の今後を考える 

(R3年10月16日)

最近の世間動向(その1)

最近の世間動向(その1)

2021年版 構造設計一級建築士講習テキストの記述内容を考慮し、急遽、臨時の連載にて「10/16~10/21までの毎日連載」としています。

「建築基準法の一部を改正する法律(平成30年法律第67号)」が木造建築物の今後を暗示しているように思えます。毎日のように着信する「建材の宣伝メール」に変化がある。

さらに、これを促進する 令和3年6月に成立・公布された「公共建築物等における木材の利用

の促進に関する法律の一部を改正する法律」(令和3年10月1日施行)があります。

例えて、「CLT」が一躍注目なのですが、残念なのは軸材としての使用には向いていない。

すなわち、床や屋根、壁など、平板状の部材として使用することが想定されている。

この理由は、板厚30㎜程度のひき板を、原則的に層ごとに繊維方向と繊維直交方向を交互に積層接着した板である。結果、表層の繊維方向を強軸、その直交方向を弱軸となる。

技術革新により、プライ方式の内層の直交層に圧縮強度を高める創意工夫も出現すれば

さらなるバリエーション拡大となり、様々な架構形式に応用されるはずである。

 過去には、政策・施策の反映で平成24年度構造設計一級建築士講習の修了考査(構造設計)の「記述式」に設問となった「集成材による一方向ラーメン架構」も記憶にある。

注文主に対しての説明責任に「技術基準解説書」も踏まえて品質や留意事項、その上に

モーメント抵抗接合の接合部について「弾塑性特性」の明示を職能として求められている。

鋼板挿入型モーメント抵抗接合部のドリフトピンと集成材幅の関係による「降伏機構」であり、今後、この分野にさらなる研鑽が必要となるはずである。

 木造建築物の今後は、「建築着工戸数」の約6割を占めている現状から「大断面木造」も

含めて集成材・LVL・CLT・CLTパネル工法などバリエーションがおのずと見えて来る。

例えて、「大断面木造のバリエーション」を考えてみます。

大断面木造は、柱間隔4~5mを境に

・在来の木造学校校舎に代表される大規模木造の流れをくむもの

・木造というより鉄骨造、RC造に近い、大スパン構造のもの

に大きく、2つに区分されて設計行為と映っているようである。アーチを連想がちだか

我が国では実施例も多くなく、前者の場合、柱とはりによる通直軸組も十分考えられる。

次回、引き続き「CLTパネル工法」のバリエーションについて論評します。

 

(R3年10月17日)

最近の世間動向(その2)

最近の世間動向(その2)

2021年版 構造設計一級建築士講習テキストの記述内容を考慮し、急遽、臨時の連載にて「10/16~10/21までの毎日連載」としています。

前回に述べた「CLTパネル工法」のバリエーションについて論評します。

どんな架構形式であっても「力の流れ」は素直であり、ヒラエルキーの約束の上に地上に

構造物として自立し最後は地盤に伝搬されています。

「CLTパネル工法」について、以下3種類がある。

・小幅パネル架構

・大版パネル架構 ①

・大版パネル架構 ②

現在、ほとんどのCLT建築はルート ① である。またルート①ではさらに制約がある。

  • 大版パネル架構 ②は不可。
  • 上階の無開口耐力壁の直下には、上階の耐力壁と同等以上の耐力壁を設置。
  • 無開口の耐力壁の長さは90cm以上2m以下。
  • 垂れ壁・腰壁の長さは90cm以上4m以下で高さ50cm以上のもののみ有効。
  • 接合金物には木住センターのクロスマーク金物の利用が可能。

結果的に、「制約」が多すぎて注文主との間で、「耐震計算ルート」の説明責任が伴う。

ルート②以上の計算ルートでは、壁パネル部分の「フレームモデル」化となる。

そこには、垂れ壁・腰壁の交差部に「せん断パネル」をブレース置換したモデル組込みと

なり、四周の剛要素とその内部のX型の筋かい要素で構成されている。

ルート③までの設計法は、平28国交告第611号で示されており、詳細は割愛するが

①~⑤の5つに別けられている。

各自にて、告示による応力割増し係数Rf=2.5と構造特性係数Dsの値の関わりを理解する。

次回、顧客ニーズに伴う実務における様々な架構形式について論評します。

 

 

(R3年10月18日)

顧客ニーズの対応(その3)

顧客ニーズの対応(その3)

2021年版 構造設計一級建築士講習テキストの記述内容を考慮し、急遽、臨時の連載にて「10/16~10/21までの毎日連載」としています。

世の中の推移では「技術立国」の我が国における顧客ニーズの対応が優劣を決める。

まず、座右の友となる文献である。最低でも以下2冊は必要不可欠です。

  • 木質構造設計規準・同解説-許容応力度・許容耐力設計法- (日本建築学会)
  • 大断面木造建築物 設計施工マニュアル 1988年版 (日本建築センター)

現在、「集成材」を用いた構造計画が多用されている。その実務に関するもので考えられる

のは「注文主・顧客」が平面系、立面系に「異種併用構造」を望む場合の対応である。

  • 大断面木造とRC構造の併用-構造設計上の留意点

・上階木造 / 下階RC造   → 地震時の木造部分の応答に注意

・一部木造 / 一部RC造  → 水平構面の設計、水平力の分担率を適切に

・上階木造 / 下階柱RC造  → 異種境界構造を設ける

・屋根部木造 / 柱部RC造 → 水平構面の適切な設計が必要

  • 大断面木造と鉄骨構造の併用-構造設計上の留意点

・上階木造 / 下階S造   → 異種境界部に剛な床が必要

・一部木造 / 一部S造  → 水平構面の設計、水平力の分担率を適切に

・上階木造 / 下階柱S造 → 異種境界構造を設ける

・屋根部木造 / 柱部S造 → 水平構面の適切な設計が必要

以上より、壁式RC造を含めて「境界部の接合」「応力変形解析」などRC造と大断面木造建築物との組合せが他に比較して技術的に難がなく多く用いられている。

次回、顧客ニーズに伴う多様な架構形式における「地震力に対する構造計算」について

触れます。

 

(R3年10月19日)

顧客ニーズの対応(その4)

顧客ニーズの対応(その4)

2021年版 構造設計一級建築士講習テキストの記述内容を考慮し、急遽、臨時の連載にて「10/16~10/21までの毎日連載」としています。

顧客ニーズに伴う多様な架構形式における「地震力に対する構造計算」について構造

実務上の観点からの論評です。

現在、「集成材」を用いた構造計画が多用されている。その実務に関するもので考えられる

のは「注文主・顧客」が平面系、立面系に「異種併用構造」を望む場合の対応である。

  • 大断面木造とRC構造の併用-地震力に対する構造計算

【階によって構造が異なる場合の耐震設計の進め方】

・建築物の高さと重量から固有周期、Rt及びAiを求めた上、一次設計を行う。

・昭55建告第1793号によって算出したAiの値は一般に過大になりがちである。

・上記を嫌う場合、固有周期を固有値解析によって求めた上、Aiの値をモーダル・

アナリシス(多自由度の振動系の振動解析)によって算出が適当と考えられる。

・二次設計の耐震計算ルートは、原則としてすべての階で同じとする。

・上記において、計算方向によって計算ルートが異なることは差し支えない。

  • 大断面木造と鉄骨構造の併用-地震力に対する構造計算

【階によって構造が異なる場合の耐震設計の進め方】

・建築物の高さと重量から固有周期、Rt及びAiを求めた上、一次設計を行う。

・二次設計の耐震計算ルートは、原則としてすべての階で同じとする。

・上記において、計算方向によって計算ルートが異なることは差し支えない。

・異種構造の境界部における木造部材と非木造部材の接合部は、両部材の弾性挙動の違い を考慮して、適切に設計する。

上記以外、一つの階に異種構造が併存し、平面・立面的に結合される場合においては剛性や水平分担率など極めて重要な要因を含み、固有周期のみなし方にも留意する必要がある。

これらについては、大断面木造建築物設計施工マニュアル等の文献に記されている。

次回、改めて「集成材建築物」などについて論じます。

(R3年10月20日)

集成材建築物(その5)

集成材建築物(その5)

2021年版 構造設計一級建築士講習テキストの記述内容を考慮し、急遽、臨時の連載にて「10/16~10/21までの毎日連載」としています。

改めて「集成材建築物」などについて論じます。そこにあるのは、大断面の製材品は

集成材と比較して強度と品質上の問題が大きい。以下を箇条書きする。

・製材品は1種類に対し1階級の許容応力度しか与えられていない不経済なものである。

・大断面の製材品は乾燥の点で難があり、品質や寸法の安定性に問題がある。

・製材品は大断面の要求に対する対応に限界がある。

上記のような背景から、大規模木造建築物の主流は「集成材建築物」となる。

我が国における沿革は、発展変遷の時系列から1951年の森林記念館に始まり1986年の

「構造用大断面集成材の日本農林規格」制定に至っている。三井木材工業㈱の歴史を見れば

1968年末までに集成材を供給した640件の建築は、集成材建築の最盛期における傾向を

よく示し、建設地の大半は北海道で、東北、関東の順に次ぐ「東日本」がメインである。

 米国では断面の小径が15cm以上、かつ断面積300cm2以上(せいは20cm以上)の部材を

heavy timber と呼び、集成材構造としていた。我が国の法改正の中にある「大断面木造

建築物」に用いられる柱と横架材の断面はこれに倣ったものである。

集成材は、その形状から直線状の材は「通直集成材」と、湾曲状の材は「湾曲集成材」に区分されている。これらを用いた骨組形式は以下のように分類される。

・ポストアンドビーム形式のフレーム

・山形ラーメン(通常3ヒンジあるいは2ヒンジの骨組)

・アーチ(通常3ヒンジあるいは2ヒンジの骨組)

・シェル

・立体トラス

集成材は意図する形状と寸法の断面を自由に作れるので、骨組に使用される集成材は

変断面材とすることも、湾曲させることも容易である。

次回、最終回は「集成材等建築物」と大工工事などについて論じます。

 

(R3年10月21日)

集成材等建築物と大工工事(その6)

集成材等建築物と大工工事(その6)

2021年版 構造設計一級建築士講習テキストの記述内容を考慮し、急遽、臨時の連載にて「10/16~10/21までの毎日連載」としています。

最終回は「集成材等建築物」と大工工事などについて論じます。

「集成材等建築物」とは、施行令第46条第4項の壁量規定を適用除外するものである。

資本主義経済の中、「師弟関係」の絆に技術革新の進歩から楔が入るように思える。

それは、職業訓練・職業能力開発に関連し「建築工事」の分野にある「大工工事」には

変革となる。すなわち、「在来軸組工法」にも「プレカット工場」が卓越すればする程

伝統的技能が片隅に追いやられ、「道具箱」の中身も大きく様変わりしている。

「師弟関係」の絆に譲り受ける「木箱」の「道具箱」も少なくなり、現場で垣間見るのは

プラステック樹脂製のコンパクトな「電動工具」ばかりとなっている。

「長押」の取付けさえ既製品の切断作業程度となり、早朝から「砥石」でのカンナの刃を

研ぐような大工工事職人を見付けるのは難しい。亡き父は「大工」であり思い出となる。

今に思えば、「自転車屋 → オートバイ屋 → 自動車屋」への業務変遷と重なります。

 モータリゼーションの急速な発展から、「大工工事」の作業にも「輸送手段」として貨物自動車が大活躍したが、現在は、ワンボックスカーで「自宅→工事現場」の往来である。

在来軸組工法では、まだ「製材所の一隅」に場所借りで「刻み作業」を見受けられますが

この先は、ほとんどの工程で「プレカット」「ロボット」に委ねられてしまう運命なのです。

「木工」と呼ばれる方々のみ「作業工場」で労働の汗をかかれ、町屋・野丁場の仕事も

どんどん淘汰・変遷をたどるように思えます。それは、「鉄工業」にも言えるようです。

「パッケージ製品」として大量生産となればどの業界にも共通となります。

 世界の「覇権」が米中で争いが始まれば、廉価な「人件費」に軍配が上がります。

私達、建築構造実務者のあるべき姿を希求すれば、おのずと結論が見えます。

 資本主義社会である限り、「注文主・顧客」に対する「職能説明責任」となります。

だからこそ、「構造計算の出来ない一級建築士」は社会に通用しないのです。

ささやかな「構造支援」をしているのは、そのためです。

おすすめコンテンツ